第54便 念願の氷河スキー(2010.2.24)

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SN54_1.JPG 日本のプリムラ山の会の友達、『山ちゃん』がスイスにやってきた。54歳、独身、自分の山スキー靴もスキー持参で、やる気満々の様子。彼とは、八ヶ岳の冬のバリエーションルートでルートを間違い、2日間山をさまよったという経験があり、その時パニックに陥る事もなく、胸までの大雪の中、落ち着いてトレースを付けて前を歩いてくれた頼もしい山仲間である。

SN54_2.JPG 今回の彼のメインイベントは、シャモニーが誇る「バレーブロンシュ」(訳・白い谷)とよばれる、23kmに及ぶ氷河スキー滑走らしい。

 2月14日、この日私たちは手始めにアラビス山群の一つQuatre Têtes 2301m へ向かった。ジュネーブから車で1時間、小さい村(標高900m)のはずれに車を置いて、すぐにスキーをはいて森の中へ突入。

SN54_3.JPG 周りは真っ白で視界がわるいなぁ・・・と思っているのも、束の間で、森を抜けたところで雲海を突き抜けて白銀と真っ青な空の世界へ突入!『わぁ?、すごい! 』山ちゃんは、輝く自分を取り巻く山々の美しさと偉大さに大満足している。

 日本で言うなら自宅から1時間で穂高連峰に行くようなものだねと、わたしの置かれている環境に感動さえしている様子である。前日スイスに着いたばかりというのに、山ちゃんは標高差1400mを難なく登って来た。ところが、さすが!と、自分 の山仲間を誇りに感じたのも束の間、下りのスキー滑走で『えっ?えっ?えっ・・・・・・・・・・・・・?!?!?!』と、わ たしとマイダーリンのアラン君の目が点になってしまった。

SN54_4.JPG 私たちはいつもの調子で山の斜面にスロープを刻みながらおりて行き、後ろを振り返ると山ちゃんは、まだまだず?っと上のほうで、四苦八苦しているのが見え、ぜんぜん下りてこない。こっちは待っている間に、体が冷えてくる・・・・。

 カタツムリのような速度で、しかも曲がるたびにドカンと転んでいる。深い雪で転ぶと起き上がるのがまた一苦労。まだ、半分も下りてないのに、斜面が急すぎるのか、かなり後傾なのでヒザが疲れてパンパンだと、山ちゃん苦しい表情・・・・。

SN54_5.JPG 圧雪してあるゲレンデを滑るのと、大自然のままの雪の斜面を滑るは違う。この日、30cmほどの新雪が降っていたが、午後を過ぎると雪が重くなってきてパウダースノーとは言えないコンディションに なっていた。 『あちゃ????、これはまずいなぁ????。氷河スキー難しいかもなぁ・・・・。』

  日本では彼とスキーに行った事がなかった。第一、日本ではあの当時山スキーはそれ程やっている人がいなかったし、日本のクライマーたちは皆、スキーと山は別物と考えていたとおもう。

SN54_6.JPG ヨーロッパでの冬山は、完全にスキーとアルピニズムが一体化していて、スキーが上級でなければ、登山ガイドにさえなれないのである。 ワカンを付けて一歩一歩ラッセルしながら登るのと、スキー 板に スキン(アザラシの皮)を付けて沈むことなく登るのでは、速度と体力消耗の点で雲泥の差がある。

 しかも、下りはスキーだと30分もあれば下まで降りてしまうので、気温の上がる午後の雪崩など、安全性面からみてもスキーを利用して山を楽しむのは非常に合理的なことである。

SN54_7.JPG  『やまちゃん、明日は、オーピスト(ゲレンデ外でのスキー)の特訓だよ!』

 前日の特訓の甲斐あって、速度はないけれどオーピストもあまり転ばないように滑れるようになった。実際彼はゲレンデは問題なく滑れるのだから!

 シャモニーの山岳ガイド組合にバレーブロンシュの氷河スキーの6人グループに申し込んだ。予約の際、自分たちがスキー上級者であるか、オーピスト(ゲレンデ外のスキー)を滑るのに問題ないかを厳しく何度も確認された。もちろん、山ちゃんは、上級スキーヤーではなく、オーピストにも慣れてはいないが、うまくごまかした。 

SN54_8.JPG この氷河スキーには、3つコースがあり、一番簡単なコースだったら山ちゃんでも大丈夫だろうと思ったからだ。実際、わたしはすでに何度もバレーブロンシュを滑っているので、快晴が続きスキートレースがたくさん付いている簡単コースは、技術的にはゲレンデとそれ程変わりない事を知っている。もし、山岳ガイドが彼の滑りを見て連れて行けないと判断すれば、彼はエギュイ・ドゥ・ミディからロープーウェイで下るだけの事である。一か八か・・・・

SN54_9.JPG  2月16日、快晴のなかシャモニーに向かった。ガイドとの待ち合わせ場所で、今回のメンバー、フランス人の4人の気のいい男達と会う。今日のガイドは、アルメル。(なんという幸運、私はこのアルメルと10年以上の知り合いであった!)事情を話して、アルメルに頼み込む。今日のコンディションなら大丈夫だろうという。しかし・・・・・・、

SN54_10.JPG そこに居た皆の目が、山ちゃんのスキーとビンディングに釘付けになった!!「アルペンミュージアムから借りてきたのか?」とジョークを飛ばす人がいれば、「スキーレンタルしたほうがいいんじゃないか・・・?」と、心配そうに言っているメンバーもいる。

 そう、そうなのである、日本には古いものを大事に長く使おうと言う風習があるように、山ちゃんも、20-30年ほど昔の古いスキーには今にもプラスチックがはずれて壊れそうなビンディングが取り付けられている。こちらでは、もう骨董品らしい。いまどき、カービングしてないスキーは珍しい。

SN54_11.JPG  朝10時ころエギュイ・ドゥ・ミディ(3800m)へ登り、氷河上へ出る。マイナス15度。無風・快晴。雪もいい。眼前に飛び込んでくるモンブラン、グランド・ジョラス、流れ落ちる荒々しい氷河の姿に圧倒される。

 さぁ、出発だぁ!

 ガイドのアルメルは、山ちゃんの為にゆっくり、一番滑りやすいルートを取ってくれている。山ちゃんは、ゆっくりと、転ばないように神経集中している様子。うぅーん、いけそうだ!他のメンバーも寛容で、終いには山ちゃんがいてくれてよかったと本音を吐く太目のメンバーもいた。

SN54_12.JPG この氷河スキーは、もちろん氷河上なので危険を伴うが、山岳ガイド達はどこにクレバスがあるかを非常に正確に知り尽くしており、彼らに従っていればリスクはほとんどない。

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 危険地帯を通り過ぎると、ロッカン小屋でランチ!さすがフランス、固いことは言わない。お客も、ガイドも、名物のチーズ料理に赤ワインを引っかける。笑 

 ランチの後は、なだらかなクレバスのない斜面に入り、最後モンタンベールの電車乗り場付近へ。そこからはスキーを担いで登る事20分。山ちゃん、のぼりは早い!! 笑 

SN54_14.JPG 上りきったところから、鋭い天に向けて突き上げているようなドリュウーがよく見える。最後森の中をシャモニーまで滑走であった。無事到着16時。

 山ちゃんは、『一生の中で貴重な忘れられない一日』となったと語った。

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コメント(7)

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山ちゃんパウダー滑れないんだよね。一番おいしいのに(*^_^*)。ゲレンデじゃないと安心できないらしい。私はパウダーのほうがエッジ使わないで済むので好きなんだけどねー。

⇒ ハツさん、

コメントありがとう。
いやいや・・・・・そう言う私もハツさんと同じで、ゲレンデよりパウダーのほうが得意で、ゲレンデで滑ると、けちょんけちょんにけなされます。トホホホ
でも、山ちゃんは、新しいスキーを取り入れて一段とうまくなってまたスイスにもどってくると思いますよ!!その時は、是非一緒にどうぞ・・・。

ゆきより

またまた素敵な写真と記録ですね。先日携帯に送ってくれた写真もなんとかダウンロード出来て見られました。PCからメール送ったけど届いたかな?
明日、今シーズン初めてスキーに行きます。こちらは雨です。雨に濡れたくないから標高の高いゲレンデに行きます。

⇒ TAKYさん、

コメントありがとう。初スキーはどうでしたか?標高の高いゲレンデの後は温泉でビールに美味しいご馳走でしたか・・・?笑 ヨーロッパにはそれが欠けています!! 
それにしても、わたしは山ちゃんの四苦八苦状態を見ながら、10年前の自分の姿を見ている気がしましたよ。アルメルにそう言ったら、もう少し『まし』だったって!ハハハ 継続は力なり・・・・そう感じます。何でも、こつこつ気長にやる事が勝利に繋がるのだと! ゆきより

由紀さん
この記事を読んでしばらくやっていないスキーをまたやってみたくなりました。
ところで4月に格安ツアーで家内と2人でスイス6日の旅に行くことにしました。インターラーケン4泊で2日は自由行動です。スイスは初めてなので何か良いアドバイスがあればお願いします。
堀尾  yoshiohorio2@hotmail.com

⇒ 堀尾さん、

4月の正確にはいつですか?
個人的にメールでアドヴァイス流しますね。 ゆきより

ついにグレートサミット放映始まりました!(こんな早朝に)
それより先立って、別番組でモンブランとマッターホルンの特集もありました。yukiさんの姿、映ってないかどうか、探してました。
私は今シーズンは膝の治療に専念し、オートルートはおあずけです。

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