オート・ルート第5日目

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SN33HR5_1.JPG 【4月9日 快晴】

 Cabanes des Vignettes 3158m (ヴィネット小屋)――Col de l'Eveque 3392m(エヴェック峠)――Col du Mt.Blulé 3213m (モン・ブルレ峠)――Col du Valpelline 3557m(ヴァルペリン峠)――Tête Blanche 3701m(テット・ブロンシュ)――Schoenbiel Hutte 2694m(ショーンビエール小屋)

 標高差登り1420m 標高差下り1875m 行動時間 9h

SN33HR5_3.JPG 5時30起床。外はまだ薄暗く小雪と風がビュービュー舞っている。皆疲れが溜まってきた5日目の今日が、今回のオートルート工程中一番ハードで、一番長い一日になる。3000m以上の三つの峠を超え、最後はテット・ブランシュのサミット予定。希望通りの小屋が取れなかったのでマッターホルンの北壁の麓にある小屋まで下る事になっている。ヴィニエット小屋の出入り口からのアクセスは、左側はずどんと岩壁が切れ落ち て、右は急な長い雪面になっている。朝のエンジンのかかる前だから慎重にいく。ガイドのフィリップが、今朝はタカヨ、トシの順にマークした。一番スキーの下手なわたしをどうしてマークしないのかなと思ったが、そんな事を深く考えている時間は無い。このチームは行動し始めたら早いのだから!!

SN33HR5_4.JPG まず、エヴェック峠を目指し、プチ・モンコロンの傍を通りぬけオテマ氷河上を横切りる。朝は風があり、体感温度はマイナス。キャメルバックのホースがすぐに凍りついてしまった。振り返ると昨日登頂したピンダ・ローラが朝やけでオレンジ色から徐々にピンク色に染まりとてもきれいだ。前夜は全然眠れなかったと言うトシは、(どうりでイビキが聞こえなかった・・・笑 )今日はほとんど無口でマイペース。あとの4人は恵まれた天気に歓喜しながら進む。

SN33HR5_5.JPG 高度がなだらかに上がるのでけっこう長い。しかし9時前には風の吹きさらすエベック峠3382mに到着し、そこからはフランス側のモンブラン、モン・ブエ、スイス側のバイスホルンや、ミシャベル山群など数々の名峰がくっきりと顔を見せてくれている。ガイドのフィリップさえこんなに快晴に恵まれこんな完璧なパノラマを見たことが無いらしく、自分のカメラでぱちぱち撮影しまくっているのだから、わたし達は本当に"ラッキーな一週間"にすっぽりとはいったのだと実感する。

SN33HR5_6.JPG コルから快適にパウダーの中を滑り下り、今度は第二のモン・ブルレ峠を目指す。けっこう平らが続き、左前方にはブクタン(山ヤギ)山稜がギザギザとそそり立っている。峠の取り付きまできたら、傾斜がきついのでスキーを背負ってスキー靴にアイゼンを装着してゆっくり登り始める。わたしの重いアイゼンは、ベルビエで辞退した白鳥さんが使っていた軽いアルミのスキーツーリング用の物と取り替えてもらい、とても重宝している。オートルートは、100gでも荷物が軽いほうがいい。みんな削れるものは全て削って、サックの重さは8キロから10キロの間で押えていたと思う。

SN33HR5_7.JPG 3213m Col du Mt. Brûlé (モン・ブルレ峠)に到着すると、風はやんで太陽がサンサンと照り始めている。次にわたしたちの目に飛び込んできたのは、平らな長い長いトラバース。

 右側はイタリア国境で、イタリア側からのオートルートのトレースが見える。このトラヴァースは暑かった・・・・サンクリームをいい加減にしか塗っていないタカヨの顔は、カズヤと見劣りしないくらい真っ黒になり、仲良く並んでいる二人を見るとネパール人の姉弟のように見える(笑)。

 さあ、最後の峠、Col du Valpelline バルペリン峠3557mの最後の登り!この斜面あたりのトシの速度はだいぶスローペースになり、前に傾倒しすぎてバランスを崩してしまう場面もあったが、タカヨの元気いっぱいの声で「ここは勝利の峠!ここを超えたらオートルートをやり遂げたようなものだよ?!」と励まされ、再び奮起する。わたしの父親と同じ様な年齢だが、若者と対等に渡り合える体力を維持しているとは努力の賜物だ。トシが35年間想い続けたオートルートの晴れ舞台が、本人も信じられない程いい天気で、楽しいガイド、いい仲間に恵まれたのは彼の熱い信念が神様に伝わったのではないかと思う。

 「あー、マッターホルンの頭が見えるよー!!」感動の瞬間!!

 とうとう辿り着いた3つ目の勝利のバルペリン峠からはマッターホルンを代表とするスイス・バレー州の4000m級の山が21峰ドカドカドカドカっとそそり立ち、大パノラマが展開している。ヤッホー!!

 お昼を過ぎて腹ペコだったが、すぐ左手のテット・ブランシュ(白い頭)Tête blanche 3701mにさっさと登り、皆で記念写真を撮る。その後、最後の行動食をたいらげて今晩のシェーンビール小屋2694mに向かう。ここからの滑走はけっこう長い。クレバスの危険地帯を抜けた後、高度が下がるに従い雪質がだいぶ悪くなってきたが、幸運なことに雪面に大蛇が水面を泳いでいるような巨大なトレースがしっかりとついていて、それに沿ってビューンビューン楽に下れたのは助かったし、ジェットコースターみたいで面白かった。コースアウトしているメンバー約一名いましたが・・・(笑)。最後、小屋に向かって登り返し、小屋までスキーで200m滑降。その時!

 「ギャー!」小屋のまん前で、ガイドのフィリップが大転倒!腐った雪でスキーの先が凹みに突き刺さり顔面からズッポリである。小屋のテラスでそれを見ていたスキーヤーも、トシも、両手挙げて大笑いのおおはしゃぎである。本当に・・・・最後の最後まで笑わせてくれる。

 ツムット氷河のモレーン上にポッコリと立っているこの小屋からの眺めは素晴らしく、ずっと前から泊まりたいと思っていた小屋だ。マッターホルンの北壁がツムット稜とイタリア側のライオンリッジをはさんでドッカーンとそそり立ち、本当に目と鼻の先である。東壁の上部が少しみえて、究極の迫力満点のアングルである。

 Schoenbiel Hutte ショーンビエール小屋は、一番街に近い小屋だが、一番不便な小屋だった。もちろん、水はないし、トイレは外にしかなく、夜中でもつるつる滑る凍った雪の上をくだっていかねばならないのは恐ろしかった。

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