ロープウエーが動き出して、眼下に見える険しい登山道を視野に納めたり、山襞を削ぎ落とすように流れる滝に目を奪われたのも一瞬、秒速7mのロープウェーは霧が立ち込めだした山肌を掠めるように、約1,000mの標高差を一気に駆け上がってしまった。
【第1日】9月7日(月) 頭上は快晴
《千畳敷から乗越浄土・中岳を経て木曽駒ヶ岳登頂》
千畳敷に着いた時、霧が立ち込めていましたが、外気温が肌に心地よい昼下がりでした。そして、高度順応を兼ねた昼食を済ませて八丁坂の急登が始まる頃には、その霧も切れ始めて、青い空の中に宝剣岳の岩稜が聳えていた。なんて荘厳な雰囲気・・・信仰心の薄い私でも、山岳信仰の原点とも言われる「畏怖」を感じるのでした。
しかし、高度が上がり宝剣岳を左肩の近くに意識するようになった時には、そのような敬虔な気持ちも薄れ、肉体はひたすら急坂と荷の重さに耐えようと、もがきだした。やはり高度順応がまだ充分でなかったようで、リーダーは、全員の息遣いや左右の足の踏み出しに気を使いながら、一歩一歩登って行きました。
急坂を登りつめると、乗越浄土で、中岳と馬ノ背のたおやかな稜線が目の前に広がって、伊那前岳に繋がる稜線の端に、真っ赤なウェアを着た岳人らしき人がすっと立っていた。その姿が、空の青さと呼応していて、思わず、「あんな赤いウェアを着てみたい!」
そんな冗談を言い合いながら歩くうちに、だんだんと何時ものペースになりました。時刻は14時、千畳敷を出発してから1時間10分を経過していました。
宝剣岳山荘横で15分休憩。宝剣岳登頂は回避して、周囲の景観を堪能する。
乗越浄土から中岳・木曾駒ケ岳への道は、大きな丘に通じるような整えられた径でした。所々に、ピークを過ぎたコマクサが咲いていた。周りの景色があまりにも雄大であったので、その可憐な姿が際立って、才美さん、きみ子さん、幸子さんが、そして善右衛門さんまでが愛惜の言葉を投げかけていました。
登り始めの苦しさなどすっかり忘れて、心地よさを引きずりながら16時15分頂上木曾小屋に着いた。そして、今まで感じた事のない想定外の感動がありました・・・・・。
この日、幸いな事に自分が立つ標高2,800m付近、そして空間距離3km内は快晴で、その向こう360度四方は高積雲が全天を覆うように広がっていました。その雲海と山々の織り成すあまりにも美しい姿に我々は夕闇がせまるまで、見とれてしまったのです。
中岳からは南アルプスが、木曾駒ヶ岳からは北アルプスが・・・・甲斐駒ケ岳・槍ヶ岳等の頂が黒い島のように雲海に浮かんでいました。この空間距離60km先の光景は雲も山も微動だにしない厳粛な静かな味わいでした。
小屋の前に立つと、手に取れる近さに宝剣岳・三ノ沢岳、右手の彼方に御嶽山・乗鞍岳が一瞬夕陽に映えて、日暮れに溶け込んでいた。そして、宝剣岳に纏わりついた雲は、すじ状の雲となって、ゆったりと流れながら消えていきました。一方御嶽山と我々の間にある雲海には、次々に新しい雲が湧いて、滝雲となって眼下の山に流れ込んでいました。
ここには静と動が入り混じった・・・・人智を越えた自然の息遣いがあったように思います。
小屋はご老人が一人で取り仕切っていましたが、仄々とした方でその実直さが窺い知れる佇まいがこの小屋にはありました。手料理(肉じゃが?もしかしてボルシチ)美味しかった。
【第2日】9月8日(火) 晴れ
《頂上木曾小屋から木曾駒高原新和スキー場へ下山》
午前5時40分、玉窪ノ山荘(9合目)に向けて出発。昨日は標高差2,000m以上をバスやロープウエーを使って駆け上がってしまったが、今日は自力で下る事になる。
旧来の登山道――山荘を過ぎて右へ、ハイマツの中の道を、右後方に木曽駒ヶ岳の山稜、左に木曾前岳、時折前方に御嶽山を望みながら黙々と下る。
玉ノ窪のカールを下り、ハイマツよりダケ カンバやナナカマドが目立つようになると、麦草岳に渓(玉ノ窪沢?)が深く喰い入って、山腹は急峻さを増していった。
7時30分、8合目で2回目の休憩を済ませて出発。水場を右に見て少し登ると登山道は、人一人が通れる程の小径になって、リーダーが前で、「離れるな!」と叫んでいました。まもなく大きな岩が散在する「山姥」と いう所があって、岩陰には万年雪がありました。
かろうじて麦草岳の山腹を巻いていた径は、いよいよ渓に落ち込む岩場に阻まれて、壁面にへばりつくように架けられた桟(かけはし)になった。緊張しながらも、しっかり手入れがされているように見えたので、命を託して、体重を山側にかけて、谷側からは目を逸らして渡りました。
8時30分、7合目避難小屋に着きました。御嶽山が正面に大きく見えるようになって、「もう楽勝だ!」と、甘い目測をしてしまいました。が、なんと、まだ標高2,420mだったのです。結局、8合目から7合目は、30度近い斜度をほぼ水平に横切っただけのようでした。ここからは、樹林帯をひたすら下るだけ。>/p>
親切な山(?)には、適度に道標があっ て、あと何キロなんていう目安で奮い立つのですが・・・・この山の「1合」は??? 長くてきつい下りでした。時折、リーダーが「もう直ぐだ!」と言って、皆の士気を上げていました。
12時少し前、事故もなくしっかりした足取りで、『福島Bコース』の終点コガラキャンプに到着しました。
本当に天気に恵まれた、大満足の登山でした。この大自然の中で、歯車が一つでも狂ったら・・・もし、あの『山の桟』で雨風に遭遇したら・・・。禍福は背中合わせの関係にある事を学びました。リーダーの計画を原点として、さまざま要素が旨く絡み合って楽しい山行が出来た事に感謝致します。
- 参加者:
善右衛門、勝巳、才美、紘正、世義、きみ子、幸子、以上計7名 - コースタイム:(着/発)
- 【第1日】9月7日(月) 徒歩 3時間25分(千畳敷--頂上木曾小屋)
JR飯田線駒ヶ根駅(10:47/11:00)――(バス)――ロープウエー乗り場1,662m(11:40/12:10)――千畳敷2,612m(12:20/12:50)――乗越浄土(14:00/14:15)――中岳(14:30/14:40)――駒ヶ岳頂上山荘(15:00/15:15)――駒ヶ岳山頂2,956m(15:25/16:00)――頂上木曾小屋(16:15/)(宿泊)
宿泊先:「頂上木曾小屋」Tel:0264-52-3884、宿泊料金8000円 - 【第2日】9月8日(火) 徒歩 6時間10分(頂上木曾小屋--コガラキャンプ場)
頂上木曾小屋(/5:40)――9合目玉の窪2,758m(6:00/6:05)――8合目(7:10/7:20)――7合目避難小屋2,420m(8:30/8:50])――6合目2,285m(9:15/)――4,5合目力水(10:05/10:35)――コガラキャンプ場(11:50/12:40)――(タクシー)――駒の湯(13:00/14:40)――(タクシー)――木曾福島駅(/15:25)――(信濃15号)――塩尻駅(/15:55)――(あずさ26号)――八王子駅(18:01/)(解散)
- 【第1日】9月7日(月) 徒歩 3時間25分(千畳敷--頂上木曾小屋)
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