No.168 厳冬の荒海を求めて、新潟「番神岬」報告(2006.12.27-28)

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Banjin.JPG(記録担当 勝巳)

 気の利いた人たちはせわしなく師走の街を行きかうのに、気の利かない我ら4人。早朝出勤の群集に遊離逆行していくその先は吹雪き荒れ狂う鉛色の日本海のはず。国境の山々を越えて延々たる鉄路の旅だ。

 硬いボックス席には冬枯れる越後を眺め心の飛揚に任せる旅が似合う。馬齢65歳にもなればこの過ぎ行くおよそ非生産的な時の間に、過ぎし日の喜びや哀しみを苦く想い、娑婆も下界もなく2300円のキップに全てを託した彷徨を尊しとす。

 

【第1日】12月27日(水)横浜駅中央改札口午前6時25分

Banjin_2.jpg 連れの3人を待つ間、ホームレス君が寄ってきて気安くタバコを無心される。格好の仲間と思われたか、丁重にお断りし複雑な気持ちで、思ったより混んでいる6時29分発湘南ライナーに。正直、差し迫った暮れに、しかもこんな早くから電車に乗る人はないと思ったのが間違い。皆働きに出るのだ。ずいぶん昔のような気がする、あの人たちと同じ姿でいたことが。別世界から見ている今の自分を別の自分が侮蔑を込めて斜に見ている。曜日も時間も気にしなくなり俗世界との縁は切れているはずなのに。

 ライナーの終点高崎駅8時53分。早くも昼の達磨弁当を買う。水上行きに他の乗客はなく専用列車はどこかの独裁者気分だ。早速各自持参の大吟醸、ワイン、焼酎の飲酒優先順位決定戦。なんの根拠も無く大吟醸から始める。朝食が早かったので早めの酒付昼食。いや、昼食付きの酒盛り。いつのまにか国境の長いトンネルを抜けて銀色の世界と思いきや、雪など平地はおろか、遠い山にすらない。越後の村々は前夜の雨で水をタップリ含んだ草紅葉に覆われている。どんより垂れ下がった雲から氷雨が今も細々と降っている。田植の頃のように田は水を張って鉛色に光り、野も、山も、村もしっとりと灰色に寒々と伏している。途中、土樽や、湯檜曽を過ぎる頃、地元の人たちが私達を異邦人のごとく無関心に過ぎていく。ことごとく駅にとまり、手で開ける扉がほろ酔いの暖かい車中にひんやりした風を思い出したように運び、乗客を雨のホームに降ろして行く。車窓から身を乗り出し覗き込まなければ無人駅のホームは気づかない。宮内という不慣れな駅着13時31分。時間は腐るほどある旅だ。なんなら、ホームで野宿もいい。だから車掌の言う運行遅延放送などまじめに聞いていなかったが、結果的には列車は正常運行。皮肉なものだ。柏崎への線は完全無欠の田舎を走り、これでもか、これでもかと、田舎が押し寄せて来る。

 

12月27日(水)JR北陸線柏崎駅改札口

Banjin_3.jpg これだけの田舎を経てくると柏崎は都会だ。駅前には鉄筋のビルがあり、道路に信号待ちの自動車がいる。柏崎駅着14時13分。多くの乗降客があり自動改札機もある。原発があっても柏崎は地の果てではない立派な海沿いの町だ。青春キップを片手に改札口を保護者を先頭に4人連れ立って出る。民宿の車を間違えないようにとナンバーと車種を知らせてくれたが、駅前の状況は閑散として間違えようが無い。番神岬にある民宿めがけて雨の切れ目の柏崎駅を出る。その民宿は海沿いの国道に面していた。前は国道越しの松林。その先10mが砂浜と海。黒雲が驟雨を伴い、日本海の白い波頭を低く荒々しく流れて行く。ひとまずカメラを片手に番神岬に出る。強風のなか海岸線は遠く灰色に消えて、雨は思い出したように気まぐれに海に降る。岬の小さな赤い鳥居が黒い海を背に夕暮れの波音の中にある。若き日にあこがれたシホテアリニ山脈はあなた水平線の遥かにある。この冷たい風はきっとそこのまだ見ぬシベリヤの山野を経て来たに違いない。

 

12月27日(水)柏崎市西番神海水浴場内 民宿磯美荘

 間違いなく虎落笛(もがりぶえ)の民宿だ。一晩中の暗黒の波音、驟雨、窓打つ烈風、雪こそいまだしも、求めて止まない冬の日本海の原風景だ。20数年前泊まった民宿はすでに廃業して草生す野であった。悠久にひれ伏し置き忘れられているかに見える寒村にも哀しい人の物語があるのだろう。この民宿は、自分を見つめそして知り、限りなく他人に優しくなれる民宿だ。虎落笛のなせるわざなのだろうか。

 翌朝6時朝食、雪はまだなく寒い雨が続いている。防風林の松風が波音とともにこの地の音を奏でている。鯨波駅7時04分発。まだ薄暗い。直江津までの海岸線の線路は今にも冬の波に洗われそうだ。幾つものトンネルを過ぎ、鉄橋を渡り、断崖を過ぎり、たえず日本海を右手に防雪柵沿いに列車は無人駅を一つずつ過ぎていく。ホームから小さな人影なき漁村が見えたり、海に浮かんでいると見間違えるホームを過ぎて直江津にいたる。蟹と鮭の弁当を買込んで、もちろんアルコールを。そして着いた先が糸魚川だ。

 

【第2日】12月28日(木)JR糸魚川駅改札口

 糸魚川8時53分着。2時間近い待ち合わせが楽しい。点から点の旅では苦痛でしかないのに胸躍る乗り換え時間だ。早速、観光案内所に行く。この季節めったに観光客が来ないこともあり、その上天性の親切心からか、なかなか説明が終わらない。早々にいくつかの目玉を聞き出し、駅を出てともかく糸魚川海岸に至る。コンクリートの防潮堤とテトラポットに侵された海岸はかって翡翠を探した美しさはない。この展望台からは大型の車がゴウゴウと走る国道の向こうに僅かに海面があり、能登半島らしき姿が灰色の空に隠れているのみ。取って返して古い街中にはいる。なんといっても知らない街を旅人として過ぎり行くことより心弾むものはない。北国街道や塩の道が行きかう由緒ある街の面影漂っている。名物の「牧野製飴店」の飴をお土産に買い、経王寺の立派な山門を入る。この辺はさすがに歴史を思わせ山門前の洋服屋などは完全に時の流れに超然としている。山門の右手の小さなお地蔵さんの一つは、頭にキリストの十字架でベールをかぶっている。どんな人がどんな時代に作ったのだろうか、そしてどんな経過を経てここにおわしますのか。長与義郎の「地蔵の話」を思わせる豊かさがここにある。雨は降り止まない。裏道のしっとりした木造の黒い家々に人影はない。明日にも来る厳しい雪の冬をひそかに身構えてる街である。

 直江津で手回し良く買った弁当を食べ南小谷から、松本を経て快晴の八ヶ岳の峰を巡り高尾、そして帰宅と早朝からの18時間に及ぶ長いが短かった旅が再開する。

  • 日時:2006年12月27日-28日
  • 参加者
    三貴也、勝巳、謙司、ほか1名、以上計4名
  • コース:(着/発)
    • 【12月27日】 乗車時間約8時間、乗り換え4回
      横浜駅(/6:29)......(湘南ライナー)......高崎駅(8:53/9:17)......水上駅(10:21/11:31)......宮内駅(13:31/13:35)......柏崎駅(/14:13)......(民宿の車)......民宿(/14:30)......番神岬(/16:30)......民宿(/17:00)
    • 宿泊先:磯美荘Tel0257-24-2101 宿泊料7300円)
    • 【12月28日】 乗車時間約12時間、乗り換え7回
      鯨波駅(/7:04)......直江津駅(7:42/8:15)......糸魚川駅(8:53/10:49)......南小谷駅(11:48/12:07)......松本駅(14:15/14:34)......高尾駅(18:08/18:11)......八王子駅(18:20/18:31)......町田駅(/18:59)(小田急線乗り換え)
  • 費用:キップ2300円×2=4600円
    宿泊料のほか、昼食弁当2000円程度、アルコールなど総計15,000円程度(清酒1、ワイン1、焼酎1、ビール10(大きさはご想像あれ) つまみ6袋

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このページは、akirafが2007年1月 7日 09:44に書いたブログ記事です。

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